2010年6月14日月曜日

 平成20年(家)第3523号 市町村長の処分に対する不服申し立て事件
           
            審判
 本籍 (省略)
 住所 (省略)
 申立人  矢藤仁 昭和(略)年(略)月(略)日生
      (以下「申立人仁」という。)
 本籍・住所 申立人 矢藤仁に同じ
 申立人  矢藤清恵  昭和(略)年(略)月(略)日生
      (以下「申立人清恵」という。)

           主文
 申立人両名の本件申し立てをいずれも却下する。

           理由

第1 申し立ての趣旨および実情

 申立人は平成20年12月8日、名古屋市東区長に対し、二女玻南(はな)の出生届け(以下「本件出生届」という。)を提出したが、戸籍法50条2項に定めのある子の何用いる文字以外の文字を使用した名であるとして受理されなかった。しかし、「玻」はワープロ入力等でも難なく変換・表示される一般的な文字である上、古来より、瑠璃、玻璃と七宝のひとつに数えられる宝玉の一つであり、日本人の心に根ざしたもものである。また、「玻南」は、姉である「瑠都」と対をなすものであり、申立人両名にとって大切な宝玉であることを示す「玻」と、暖かく皆に囲まれた中で育つ「南」を指すものであって、次女が、家族みんなが待ち望んだ大切で、愛しい宝玉であるという思いが込められており、どちらの字がかけても、申立人両名の二女に対する深い思うが込められた名前になり得ない。このように、二女の名としては、「玻南」以外ありえないことや、「玻」は、日本人の心に根ざし、かつ常用平易な文字であることからすれば、本件出生届けは受理されなければならないものである。
 よって、名古屋市東区長の本件出生届の不受理処分に対し不服を申し立てる。

第2 当裁判所の判断

1 一件記録によれば、平成20年11月23日、申立人両名との間に二女が出生したこと、申立人仁は、同年12月8日に名古屋市役所に本件出生届を提出したこと、同区長は、本件出生届の子の名に使用されている「玻」の文字が戸籍法50条および施工規則60条に規定する子の名に用いることができる文字以外の文字であることを理由に本件出生届を受理しなかったことが認められる。

2 ところで、子の名には、常用平易な文字を用いなければならないとされ(戸籍法50条1項)、常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定めるとされているところ(同条2項)、」法務省例である戸籍法施工規則60条は、常用平易な文字とは、①常用漢字表(昭和56年内閣告示第1号)に掲げる漢字、②別表第二に掲げる漢字、③片仮名またはひらがなのいずれかと定めているから、同条各号のいずれかに該当すれば、当該文字を子の名に使用することができる。もっとも、同条各号に該当しない文字であっても、家庭裁判所は、心理手続きに提出された資料、高知の事実に照らし、当該文字が社会通念上、明らかに常用平易な文字と認められるときは、当該市町村長に対し、当該文字を子の名に使用した出生届の受理を命じることができると解される)最高裁判所平成15年12t浮き25日決定。民集57巻11号2562頁参照)。
 これを、本件出生届に申立人両名の二女の名として記載された「玻」の文字について検討するに、まず、「玻」の文字が、社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるか否かを検討する。
 この点、申立人両名は、「玻」の文字は、ワープロ入力などでも難なく変換・表示される一般的なものであると主張するが、ワープロ等で「は」を入力して変換した場合、すべてのソフトで一回で「玻王例としては、「玻」に変換されるわけではないことが認められる。また、講談社「新大辞典」などの辞典に掲載されているが、その用法としては、「玻璃」のみであり、同単語も一般的に使用される単語とは認めがたいし、また、一件記録によれば、「玻」の文字を使用するb氏や地名等も多いと言うことはできない上、その他同字が社会通念上明らかに平易である文字であることを認めるに足りる的確な資料はないこと(なお、平成21年1月17日付の朝日新聞の報道によると、現在、文化審議会国語分科会の漢字小委員会は、常用漢字表の見直し作業をしているところ、日常よく使われる漢字として追加される191字に「玻」の文字は挙がっていないことが認められる。)に照らすと、「玻」の文字が、社会通念上、あきらかに常用平易な文字とすることはできないといわざるを得ない。
 そうすると、本件出生届を不受理とした名古屋市東区長の処分は、違法または不当とはいえないから、、申立人両名の本件申し立てをいずれも却下すること(なお、申立人清恵については、本件出生届をしておらず、申し立て権ないし本件申し立ての利益があるといえるか疑問があり、申し立て権などがない場合には本件申し立てが不適法となるし、仮に、もうしたてけんなどがあるとしても、上記の通り、本件申し立てには理由がないことになるから、同人本件申し立ても却下を免れない。)、主文の通り審判する

 平成21年1月26日
    名古屋家庭裁判所
     家事審判官   西田政博

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