2009年12月2日水曜日

許可抗告理由書

では、私たちが提出した理由書をコピペします。ただし、表やグラフについては、なぜかうまくコピペできなかったので、省略して本文のみを掲載します。


平成21年(ラ許)第39号

許可抗告理由書
平成21年11月20日
最高裁判所 御中

許可抗告人 矢藤仁       
    住所 名古屋市東区(非表示)
電話番号(FAX番号)052-(非表示)

許可抗告人 矢藤清恵
住所 名古屋市東区(非表示)
電話番号(FAX番号)052-非表示


御庁頭書事件について、許可抗告の理由は、別紙記載のとおりである。

目次
1 抗告理由    3頁
2 要旨      3頁
3 事案の概要   3-48頁
1. 名古屋家庭裁判所の判断(平20(家)3523号、2009.1.26審判 )について。  3-4頁
2. 原審の抗告理由について。(平成21年2月21日提出) 4-21頁
[挿入資料]
ア. 「曽」基準を一般的な基準とすることに対する反論  4-5頁
イ. 名古屋基準二への反論(用例) 6-15頁
ウ. 名古屋基準一への反論  16-18頁
エ. 「玻」と別表2の漢字の使用頻度一覧表  20-21頁
3. 名古屋高等裁判所の判断(平成21年(ラ)第86号、2009.10.27決定)について。 21-22頁
4. 抗告許可申し立て理由の骨子。 22-23頁
5. 「穹」の字を子の名に用いた出生届けの受理を命じた大阪高等裁判所の判決(平成19年(ラ)第486号)について。 23-24頁
6. 「玻」の文字を、大阪高等裁判所の示した判断基準(上記ア~キ、以下大阪基準)を用い、社会通念上明らかに常用平易な文字かを検討する。 24-44頁
7. 大阪高裁判決を踏まえ、再度名古屋高裁の判決を検討する。44-47頁
8. 抗告却下以後の変化。 47頁-48頁
4 結論     48頁
5 意見書


抗告理由
 名古屋高等裁判所の判決(平成21年(ラ)第86号、2009.10.27決定)は、「曽」の字を子の名に認めた最高裁判決(平15(許)37号2003.12.25決定)と、「祷」、「穹」の字を子の名に用いた出生届けの受理を命じた大阪高等裁判所の判決(平成19年(ラ)第252号、(ラ)第486号、2008.3.18決定「民事月報2008年5月号96頁、141頁」)と相反する判断があるため、抗告を受理し、最高裁判所で相当な審判を受けることを求めます。

要旨
上記最高裁判決は、当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときには、家庭裁判所は、当該市町村に対し、当該出生届の受理を命ずる事ができる、としていますが、常用平易性について、一般的な基準は出していません。そのため、上記大阪高裁判決では、「祷」では32頁、「穹」では18頁を費やし、戸籍法の制定から、人名用漢字の範囲拡大の流れ、そして上記最高裁判決を踏まえたうえで、常用平易性についての一般的な基準を示しています。この基準で「玻」の字を検討したところ、「玻」は明らかに常用平易であり、子の名に用いることができると判断する事が出来ます。
一方、名古屋高裁判決では、わずか7頁の判決文で、自らは常用平易性の基準を何も示す事はなく、ただ、こちらが提示した基準を、何の客観的根拠を示す事もなく否定する事だけに頁を費やしています。
両者の判決文を比べてみれば、名古屋高裁判決が、最高裁判決を正しく解釈していないことは明らかであるため、抗告の許可を求め、最高裁判所での相当な審判を求めます。

事案の概要
1.  名古屋家庭裁判所の判断(平20(家)3523号、2009.1.26審判 )について
本件の許否の判断基準は、「玻」の文字が社会通念上、明らかに常用平易な文字と認めるか否かです。その判断基準として、市側の意見書は最高裁判決(平15(許)37号2003.12.25決定)で「曽」の字に対して用いられた基準(以下「曽」基準)をあげています。(古くから用いられていること。平仮名や片仮名の字源となっていること。当該漢字を構成要素とする常用漢字があること。当該文字を使う氏や地名が多いこと。国民に広く知られていること。)家庭裁判所は、それを参考に、一.すべてのワープロソフトで、1回で「は」を「玻」に変換されるわけではないこと、二.用例としては「玻璃」のみで、同単語も一般的に使用されるとは認めがたく、氏や地名等も多いということはできないこと、三.社会通念上明らかに平易である文字であることを認めるに足りる的確な資料はないこと、これらの基準(以下名古屋基準)を満たさないため、平成21年1月26日に申し立てを却下する審判を下しました。
2. 原審の抗告理由について(平成21年2月21日提出)
まず私たちは、最高裁判決以後に裁判で認められ、私たちが知る事が出来た字{「獅」(横浜家庭裁判所 事件番号不明 2004.5.6審判)、「毘」(名古屋家庭裁判所 事件番号不明 2004.6.18審判)、「駕」(大阪家庭裁判所 事件番号不明 2004.6.10審判 認容)、「瀧」(広島高等裁判所 平16(ラ)81号 2004.6.23決定 認容)}、またそれ以前にも裁判で認められた字{「琉」(那覇家庭裁判所 平9(家)1358号 1997.11.18審判)、「凛」(佐賀家庭裁判所唐津支部、平14(家)180号、2002.8.8審判)}と、「玻」の字を「曽」基準で比較したところ、全ての字が「玻」同様認められなくなることを示し、「曽」基準を、「玻」の字に用いる事は不当であると指摘しました。

「曽」基準を一般的な基準とすることに対する反論
一件記録にあった市側の意見書(甲34)では、常用平易であることが「明らかな」文字の判断は、以下の最高裁決定の示す基準に依拠すべきとしています。
①古くから用いられていること。
②平仮名や片仮名の字源となっていること。
③当該漢字を構成要素とする常用漢字があること。
④当該文字を使う氏や地名が多く、国民に広く知られていること。
この基準を「玻」と、明らかに常用平易であると各地の家庭裁判所で認められた字(「琉」「凛」「獅」「毘」「駕」「瀧」)について検討します。
①「玻」は該当します(別紙5)。
②「玻」も「琉」「凛」「獅」「毘」「駕」「瀧」も該当しません
③「玻」も「琉」「凛」「獅」「毘」「駕」「瀧」も該当しません
④について
・ 氏について
:市の意見書で例示されている「日本の苗字7千傑」には、どの字も「玻」の字と同様に見当たらない。
:むしろ数としては「玻」よりも少ない(前記サイトでは「玻名城」と同数存在している「府玻」が抜け落ちています(甲35))、
:「琉」「凛」「瀧」を含む氏は全く存在していない(甲36-1,2,3,4,5,6,7)。
・ 地名について
:市の意見書で例示されている「国土地理院地図閲覧サービス」検索で、
「玻」1件「駕」6件、「琉」9件、「凛」0件(甲37-1,2,3)。
:最高裁判決で用いられた郵便番号検索で、
「玻」1件、「駕」5件、「琉」2件、「凛」0件(甲38-1,2,3,4)。

 実際、「当該文字が明らかに常用平易な文字であるか否かは、あくまで文字そのものの性質を考慮して判断されなければならず」(中原太郎 法学協会雑誌122巻11号166頁)とあり、当然文字ごとにその性質は異なるので、「曽」基準は尊重されるべきではありますが、文字そのものの性質が異なるので、「曽」の基準はあくまで、「曽」の場合であり、それを全て満たす必要はないと考えました。
次に私たちは、反論のために辞書で用法を調べ、インターネットを用い、「玻」の実際の使用例を集めました。書籍においては、知り得た範囲で出版部数を記載してあります。ワープロ変換については、法的に常用平易であると認められている戸籍法施行規則60条別表第二(以下別表2)と比較してみました。また、携帯電話でのワープロ変換については、実際の事例と、NTTドコモに問い合わせた結果を提示しました。

名古屋基準二への反論(用例)
「玻」の用例(三省堂「大辞林」、岩波「広辞苑」調べ)
玻璃 :仏典の中の七宝の一つ、水晶、ガラス
玻璃器 :ガラスの器
玻璃鏡 :(金属製の鏡に対して)ガラス製の鏡、姿見
玻璃質 :ガラス質
玻璃障子 :ガラス戸
玻璃長石 :カリ長石の一種の鉱物
玻尿酸 :ヒアルロン酸
玻璃白菜 :中華料理
玻球 :ガラスの玉
玻璃板 :平板印刷、アートタイプ。ガラス板を用いることから言う。
鰭玻璃草 :ムラサキ科、コンフリーもしくはシンフィツムの和名。ひれはりぐさ。
玻璃窓 :ガラス窓
玻璃珠 :水晶の玉、ガラス玉
玻璃光沢 :ガラスに似た光沢、水晶、柘榴石などに見られるもの
玻璃の鏡 :浄玻璃の鏡の略称。閻魔大王の持っている鏡で、生前の行いを映す
浄玻璃の鏡 :閻魔大王の持っている鏡で、生前の行いを映す
玻瑰花茶 :ローズティー
東玻肉:トンポーロー、中華料理

名古屋基準二への反論(実際の使用例)
社会の中で継続的に使用されている「玻」を含む名前の例
・芸名、雅号、ペンネームなど
(一覧表は省略)

名古屋基準一への反論
  別紙1 ワープロ(ウィンドウズXP搭載SONY VAIO標準装備のWord)での変換について「玻」と別表②掲載漢字との比較
①読み入力、変換では候補に挙がらず、地名人名検索での検出が必要であったもの(玻と同様の検索方法が必要であったもの)
凜 塙 奎 崚 峻 慧 彪 悌 惟 悉 惣 慧 挨 撒 撰
昊 晄 晟 晨 淳 滉 煕 燎 燿 猪 甫 祗 祢 穰 蕉
諄 赳 迪 玖 珈       
②一発検索及び地名人名検索では出ず、単漢字でのみ検出できたもの
(玻より一手間余分にかかるもの)
已 戟 拭 擢 暉 殆 漱 瀕 禱 秤 綺 徽 繡
羚 腔 萌 蔣 蠟 詢 醬 颯 驍 鷗 麒 嘉 捷
匡:コウでは一発変換はもちろんのこと、地名人名でも検出できず、単漢字約550のうち398番目に検出され、検出はかなりの困難であった
別表2のワープロ変換できない字

使用機種:ウィンドウズXP搭載SONY VAIO標準装備のWord
    :SHARP 電子辞書Papyrus PW-AT760 スーパー大辞林3.0、及び漢字源
・検索結果を混同しないよう、Wordを赤およびPapyrusを紫にそれぞれを色分けしてある
・wordで検出されないため、似たような漢字で表記を代用してある。別表2と比較すると、全て字が異なることが分かる

ト :字音、および意読ともに検出できず。今回はカタカナのトで代用。
喞 :別表の二に掲載されている字体は検出できず、この漢字そのものが電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念した。
厩 :別表二の字体は検出でず。この漢字そのものが電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念した。
噲 :別表の二に掲載されている字体は検出できず、この漢字そのものが電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念。
槇 :マキとしては検出できたが別表の二に掲載されている別表2掲載の土ヘンの字は検出できずこの漢字そのものが電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念
宥 :電子辞書で「名付け」と表示された読であるヒロ、スケは ひろ よしみは一発変換では出ず、地名人名による検索でもヒロのみ検出し、スケは検出できなかった。
屑:別表二の字体が検出できない。電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念
廟:別表二の字体が検出できない。電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念
徠 :電子辞書で「名付け」と表示された読であるキ、ユキ、コ、一発変換、地名人名、単漢字による検索いずれも検出できず、キタルも一発検索及び地名人名検索では出ず、単漢字でのみ検出。
恕 :電子辞書で「名付け」と表示された読であるクニ、クミ、タダシ、ノブ、ノリ、ヒロ、ヒロム、ミチ、モロ、ユキ、一発変換、地名人名、単漢字による検索いずれも検出できなかった。シノブ、ハカル、ヒロシ、ユルスは一発検索及び地名人名検索では出ず、単漢字でのみ検出
揃 :別表二の字体が検出できない。
幗 :キャク・カクとしては検出できたが別表の二に掲載されて手偏の字体は検出できず、この漢字そのものが電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念。
晏 :エンの読みは一発検索及び地名人名検索出ず、単漢字でのみ検出。アンの読みでは一発検索、地名人名及び単漢字でも検出不可
晦 :別表二の字体では検出できない、毎の部分は母ではなかった。電子辞書の手書きパッドでも認識されず、検索を断念。
楢: 別表二の字体では検出できない。別表2の字体は電子辞書の手書きパッドでも認識されず、読みの検索を断念。
樽・墫 :別表2の字体は電子辞書の手書きパッドでも認識されず、検索を断念、また一発検索、地名人名及び単漢字でも検出不可。
櫛 :別表二の字体では検出できない
渚 :別表2にある、点のついたものは一発検索、地名人名及び単漢字でも検出不可。
溢 :別表2にある旧字体?は電子辞書の手書きパッドでも認識されず、検索を断念。また一発検索、地名人名及び単漢字でも検出不可。
焔 :別表2にある旧字体?は電子辞書の手書きパッドでも認識されず、検索を断念。また一発検索、地名人名及び単漢字でも検出不可
煎 :別表二の字体は検出できず。別表2の字体は電子辞書の手書きパッドでも認識されず、検索を断念
煉 :別表二の字体は検出できず。別表2の字体は電子辞書の手書きパッドでも認識されず、検索を断念
琢 :点のついたものは一発検索、地名人名及び単漢字でも別表二の字体は検出できず。
禰 :別表2の字体示へんの字は検出不可。
祐 :別表2の字体示へんの字は検出不可。
禄 :別表2の字体示へんの字は検出不可。
禎 :別表2の字体示へんの字は検出不可。
蓬 :別表2の字体点が二つの字は検出不可。電子辞書にもない。
祁 :別表2の字体示へんの字は検出不可。電子辞書にも載っていない。
顚 :別表二の字体は検出できず。
饗 :別表二の字体は検出できず。
しんにょうの二つ点がつく逢、辻、迄、辿、迦、這、逗、遁、遡、遜は部首索引しても別表検出不能。電子辞書でも検出不能。

携帯電話での文字変換についての聞き取り調査および具体的な事例について
平成19年12月の時点で全国シェア51.2%のDOCOMOに「玻」の検索結果について問い合わせたところ、
「ドコモ携帯最新機種16台のうち、シャープ、パナソニック、NECの4社の製品全11台で『玻』は『は』の入力だけで候補に出る。残る富士通製の5台では『は』のみでは検出できなかったが、『はり』で入力すると『玻璃』と出る。いずれの機種も、コードを入力しての特別な検索は必要なかった」
との回答を得ている。(平成20年2月9日ドコモインフォーメーションセンター 受付:**さん、回答:**さん)
また、オムロン社の日本語変換ソフトを使用しているソニー、京セラ、三洋の携帯電話は、電話会社に関わらず『玻』は『は』の入力だけで候補に出る。
国内で使用されている携帯電話機器の7割以上を上記の携帯電話製造会社で占めていることから、ドコモの機種に限らず、国内の携帯電話のほとんどの機種で「玻」が簡単に検索でき、携帯電話の変換においても平易である。
とりわけ、低年齢の子供を対象としているキッズ携帯でさえも「は」の検索で「玻」が変換候補に挙がることは、平易という意味で特筆すべきである。

しかし、これだけでは判断材料には足らないだろうと考え、新たな判断基準を示すために、なぜ戸籍法50条1項が存在するのか、その立法趣旨を調べました。すると、「戸籍法50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならないこととしたのは、子の名に日常使われない文字や難解な文字が用いられるときは、これによって命名された本人のみならず、他者にも社会生活上の不便や支障が生ずるおそれがあるため、これを防止する趣旨である。」(最高裁判所判例解説民事篇平成15年度(下)857頁)とありました。そうであるなら、当該文字を使うことで、命名された本人や関係者に、社会生活上、多大な不便や支障を生じていなければ、戸籍法50条1項の立法趣旨を満たすので、明らかに常用平易であるといえるのではと考えました。更に、入手可能であった「悠」「琉」「曽」判決を元に、①~⑦の判断基準(①~⑦、以降矢藤基準)を提示しました。そして判断基準の比較対象として、「琉」判決でも述べられており、法的に常用平易であると認められている別表2を比較の対象としました。

① 「玻」を実際に氏として使用している人から聞き取り調査をし、本人にとっても周囲の人にとっても不便や支障は生じていないという結果であったこと。(甲2,3,4,5)
② ワープロ変換の場合、常用平易であると戸籍法が認める別表2の漢字の中には、「玻」より変換しにくいものが多数ある(ワープロ上に出せない字すらある)ことから、別表2の漢字の漢字と比べて変換が容易であること、携帯電話の漢字変換においては国内で使用されている機器の7割以上で「は」の変換候補に挙がり、残りも「玻」の代表的な熟語「はり」で漢字変換すれば「玻璃」とでるため、携帯電話においても変換は容易であること。
                       >名古屋基準一への反論
③ 「玻」の文字は、これを知らない人でも、「破」「波」「頗」等から類推して「は」と読む事は容易であること。
④ 「玻」の画数は9画であり、漢字の画数としては、少ない部類あること。更に他の裁判所で認められた「曽(11画)」、「獅(13画)」、「駕(15画)」、「毘(9画)」、「瀧(19画)」「琉(11画)」、「凛(15画)」に比して画数が多いとはいえず、むしろ少ない事。
⑤ 「玻」の構成要素は「王」と「皮」で、王は小学一年、皮は小学三年で学習する漢字で、書くことにおいても大変平易であり、覚えやすい事。
                 >以上③④⑤は名古屋基準三への反論
⑥ 「玻」の文字は、古くから用いられており、用法も多数あり、その意味は美しく高貴なものであって、江戸いろはかるたでは、「瑠璃も玻璃も照らせば光る。」として、優れた人物が何処にいても目立つものという意味で使われていること、したがって、このように美しい文字を名前に使用したいという需要は実際にも多く、「玻」の文字は、身の回りに多数存在しており、とりわけ、芸術、文学、著作の分野で幅広く使用され、児童、学生向けの図書、高校家庭科の副教材、中学校の図書館の蔵書の中にも見られるほか、マンガ、ゲーム、音楽などのいわゆるサブカルチャーでも使用されている上、公共の場でも使用され、「玻」の文字を使用する氏名や地名も実際に存在する事。
                       >名古屋基準二への反論
⑦ 常用されている(一般的に使用されている)ことを具体的に示す指標として、インターネット上で、別表2の全漢字(入力できない字は除く)と「玻」の文字のヒット件数(666万件)を調べ、比較したところ、「玻」は上位2割に入っていたこと。(別表2の81.3%、168字より「玻」は多い。)また別表2の中でも「玻」のヒット件数よりも桁違いに少ない字(200万以下)の字においては、家庭裁判所が1件記録として採用した、「日本の苗字7千傑」「国土地理院地図閲覧サービス」「熟語の数」でも比較を試みたところ、「玻」はこれらと同等以上であった事。
    >名古屋基準二を用い、「玻」と別表2の字との比較を数値化し例示

 「玻」と別表2の漢字の使用頻度一覧表(表は省略)

以上の判断基準から、私たちは、「玻」の文字が社会通念上、明らかに常用平易な文字と認めると判断し、平成21年2月21日に即時抗告しました。
なお私たちでは知る由もなかったのですが、本件の名古屋高裁審理中の平成21年4月30日に「穹」が人名用漢字に追加されています。[2009.4.30戸籍法施行規則改正(平21法務省令24号) ]

3. 名古屋高等裁判所の判断(平成21年(ラ)第86号、2009.10.27決定)について。
 名古屋高等裁判所は上記③④⑤は事実と認定しています。つまり名古屋基準三は満たしているという事です。しかしそれだけでは常用平易であるとは認められないとの判断です。⑦も事実と認定しています。⑦を認めれば、こちらの趣旨としては名古屋基準二が認められるはずです。しかし、⑥に例示した氏、名、地名、公共施設名、店舗名、商品名、ハンドルネーム、芸名、雅号、ペンネームはほぼすべてインターネットで検索したものなので、⑦で、インターネットのヒット件数を、常用されていること(一般的な使用)を具体的に示す指標としてあげているにもかかわらず、判決では、ヒット件数は一般的な使用を示す指標ではなく、マンガ、ゲーム、音楽などのいわゆるサブカルチャーでの使用のみを示す指標と、根拠もなく矮小化され、判断されています。以上の様に矮小化されて判断されているため、名古屋基準二は認められませんでした。
⑥については、名古屋基準二に相当する証拠をこれだけ例示しているにもかかわらず、何と比較しているか不明のまま、多用されているとは認めがたい、多くないとされています。
②については、常用平易な字と法的に認められている別表2の文字が、これだけワープロに表示することすらできないと例示しているにもかかわらず、全てのワープロソフトで、1回で変換できることが、明らかに常用平易である条件となっています。つまり、ここに提示した別表2の104文字、すべてが名古屋基準一を満たすことができないということです。ただし、「ワープロソフトの性能の向上によって、変換が容易になったとしても、それだけで、常用平易性が明らかであるとは認めがたい。」としているので、これだけ厳しい条件を突きつけながら、判断基準として重きをおいていないようです。
更に①については、「社会生活上の不便や支障がないという点が、当該文字を人名漢字として使用することの許否の判断基準となるものではない」と、社会生活上の不便や支障がないという点(50条1項の立法趣旨)はこの件について全く関係ないことと判断されています。
以上から、現時点において、「玻」の文字が、社会通念上、明らかに常用平易な文字と認めることはできない以上、戸籍上その使用が認められないことは、やむを得ないというほかない、と判断されています。(実際氏、名、地名で数100人が現に使用しているのに)
 まとめると、「玻」は、
名古屋基準一を、常用平易であると法的に認められている別表2の104文字と同様に満たすことができない。しかも、仮にこの基準を満たしてもそれだけで、常用平易性が明らかであるとは認めがたい。
名古屋基準二は、こちらの具体的に数値化した基準は、矮小化して判断した挙句、比較対象も不明のまま多用されているとは認めがたい、とされて満たすことができない。もっとも⑦は事実と認定しているので、ここに例示した常用平易であると法的に認められている別表2の28文字も「玻」と同様に満たすことができない。
名古屋基準三は満たしているが、それだけでは常用平易であるとは認められない。
この結論から言えることは、平易性に関連した名古屋基準一、三はどちらもそれだけでは認められない基準ということなので、名古屋基準二、つまり常用性こそが、名古屋高裁の判断基準であるということです。そして、常用性=社会においてあまねく広く多用されていることと解釈しています。それは判決文中の否定理由として、「多用されているとはいえず」「多いとまで認めることができず」「広く多用されているとまでは認めがたい」「広く国民に知られている~事実は認められない」と4箇所も記載されていることから明らかです。
 
4. 抗告許可申し立て理由の骨子
平成20年3月18日に、大阪高高等裁判所で、「祷」、「穹」の字を子の名に用いた出生届の受理を認める判決(「祷」・平成19年(ラ)第252号、「穹」・平成19年(ラ)第486号)が出ており、抗告がなかったため、確定しています。これら大阪高裁判決では、最高裁判決(平15(許)37号2003.12.25決定)が、「審判手続きに提出された資料、公知の事実などに照らし、社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるとき」とした文字使用の基準を、「祷」は32頁、「穹」は18頁かけて解釈検討し、一般的かつ普遍的な文字使用の基準を提示しています。
その根底にある考え方は、「当該漢字を子の名として使用したとしても、戸籍法が防止しようとする、命名された本人や関係者に、社会生活上、多大な不便や支障が生ずることが想定されないと認められる例外的な場合には、戸籍法50条立法趣旨に照らして、当該漢字の使用を制限すべき根拠を欠くことになるから、当該漢字は、社会通念上常用平易であること明らかな漢字と評価すべきである」と、私達の主張と同じく、戸籍法50条立法趣旨に立ち返って常用平易性を評価する考え方です。そしてこの基準で「玻」を検討すれば、社会通念上常用平易であること明らかな漢字となるので、名前への使用が認められます。
一方、名古屋高裁は、わずか7頁の判決文で、自らは常用平易性の基準を何も示す事はなく、こちらが提示した基準を、何の客観的根拠を示す事もなく否定する事だけに頁を費やしています。解釈すれば、常用性のみに重きを置いて常用平易性を評価していることになり、大阪高裁のような戸籍法50条立法趣旨に立ち返って常用平易性を評価した基準は、何ら根拠を示される事なく、関係ないと切って捨てられています。
両者の判決文を比べてみれば、名古屋高裁判決が、戸籍法50条立法趣旨を無視し、最高裁判決を正しく解釈していないことは明らかであるため、抗告の許可を求め、最高裁判所での相当な審判を求めます。

5. 「穹」の字を子の名に用いた出生届けの受理を命じた大阪高等裁判所の判決(平成19年(ラ)第486号)について
素人の私達には知るよしもなかったのですが、平成20年3月18日に「穹」の字を子の名に用いた出生届が受理を認める判決が出ており、抗告がなかったため、確定しています。そこで、この裁判で社会通念上明らかに常用平易な文字と認めた判断基準を以下に提示します。(「祷」の字も同様に同日大阪高裁で認められていますが、「玻」の文字とより共通性のある「穹」の字のみ、提示します。)
ア.「穹」は平成16年3月の人名用漢字部会における選定過程においても、出現頻度及び要望法務局数がいずれも基準値を下回ったこと【要望法務局数3、頻度数調査(2)における出現頻度は4194位(出現回数38回)】から、選定の対象とされなかったものであって、本件文字の常用平易性ないし使用による弊害の有無等について、選定過程で個別、具体的に検討された形跡はなく、また、前期の経緯に照らすと、同部会において、本件文字が常用平易性を欠いていると個別的、積極的な判断がされたものと評価すべきものとはいえない。
イ. 「穹」の構造は、総画数も8画と少ない。(矢藤基準④)
ウ. 構成要素も「穴」(あなかんむり)に「弓」(ゆみ)と、いずれも単純かつ一般的なもので、おなじ構成要素からなる漢字も少なくない。(矢藤基準⑤)
エ. 字義は、特に院名に使えないような悪い意味はなく、「蒼穹」「天穹」など比較的使用されることの多い熟語(絵画、彫刻等の芸術作品の表題や文学作品等にしばしば見受けられる。)の形で用いられる事も多い。(写真、コピーなどの具体的な証拠提出なし。民事月報2008年9月号40頁)(矢藤基準⑥)
オ. JIS第2水準の文字であり、大半のコンピューターに搭載されているところから、社会生活を送るにあたってのコンピューター等の画面上の表記や国民の多数が所持している携帯電話等を利用したメール機能による送信等にも全く不都合はない。(矢藤基準②)
カ. 戸籍統一文字にも登録されているから、戸籍事務処理の観点からみても、今後、子の名にこれが用いられても、審査の困難化や、誤字の記載といった危険性はなく、戸籍事務のコンピューター化に支障をきたすことは、およそ考えられない。(氏、地名での使用なし。民事月報2008年5月号167頁)(矢藤基準②)
キ. 筆記にも格別困難が伴うものではなく、その説明及び他者による理解も極めて容易な部類に属する。(あなかんむりにゆみ)(矢藤基準③)

 ア.以外は、本件文字を子の名前として使用した場合、戸籍法50条立法趣旨に照らして弊害が生じる余地があるか否かという観点から検討されており、私達の主張と同じ観点に立脚しているといえます。そのため、私達が独自に示した基準とほぼ重なっていることが分かります。

6. 「玻」の文字を、大阪高等裁判所の示した判断基準(上記ア~キ、以下大阪基準)を用い、社会通念上明らかに常用平易な文字かを検討する。
「文字のうち、何が常用平易な文字であるのかは、一義的に明らかではない上、時代の推移、国民意識の変化そのほかの事情によって変わることもあり得る」(最高裁判所判例解説民事篇平成15年度(下)857頁)とあるため、大阪高裁の基準を、「玻」に用いることは適切でないとの考えもありますが、大阪高裁判決(H20.3.18)から名古屋家庭判決(H21.1.26)、即時抗告(H21.2.21)まで1年離れておらず、名古屋高裁判決(H21.10.27)までも2年と離れておらず、この短い間に、国民意識の変化等を認めていないため、大阪高裁の基準を、「玻」に用いることに何も問題はないと考えます。
まず、論を述べる前に、実際の大阪高等裁判所の判決文に「玻」とそのデーター等を当てはめたときに、どれほどの差が生じるのかを具体的に示します。
(対照表は、省略。常用平易の話で掲載しました「穹」事件との比較です)

上述したとおり、全く同じ論で「玻」の名前への使用を認めることができます。以下に大阪高裁の判断基準で「玻」を検討した部分のみ抜粋します。
ア.「玻」は平成16年3月の人名用漢字部会における選定過程においても、出現頻度及び要望法務局数がいずれも基準値を下回ったこと{【要望法務局数4、頻度数調査(2)における出現頻度は3992位(出現回数51回)】ちなみに「穹」は【要望法務局数3、頻度数調査(2)における出現頻度は4194位(出現回数38回)】}から、選定の対象とされなかったものであって、本件文字の常用平易性ないし使用による弊害の有無等について、選定過程で個別、具体的に検討された形跡はなく、また、前期の経緯に照らすと、同部会において、本件文字が常用平易性を欠いていると個別的、積極的な判断がされたものと評価すべきものとはいえない。
イ.「玻」の構造は、総画数も9画と少ない。
ウ. 構成要素も「王」(おうへん)に「皮」(かわ)と、いずれも単純かつ一般的なもので、おなじ構成要素からなる漢字も少なくない。(球、理、珍、珈、琲、琉、琥、珀、瑠、璃、琴、琢、波、破、頗、皺、)
エ.字義は、仏教の七宝のひとつ、「玻璃」(水晶)が語源であり、そこから転じて美しく高貴なものという意味であり、「玻璃」および「玻璃」から派生した熟語(「玻璃器」「玻璃長石」「玻璃窓」「浄玻璃の鏡」)として(古くは西遊記の中にみられ、新しくは低年齢向けの漫画や児童文学の中にも見られる。また芸術、文学、著作の分野で幅広く使用され特に、文学作品等にしばしば見受けられる。)用いられる事も多い。また氏、名、地名、公共施設名、店舗名、商品名、ハンドルネーム、芸名、雅号、ペンネームでも認められ、特に人名として使えない字にもかかわらず、ハンドルネーム、芸名、雅号、ペンネームという人名に多数認めることが出来る。証拠多数提出あり。
オ. JIS第2水準の文字であり、大半のコンピューターに搭載されているところから、社会生活を送るにあたってのコンピューター等の画面上の表記や国民の多数が所持している携帯電話等を利用したメール機能による送信等にも全く不都合はない。特に携帯電話の漢字変換においては国内で使用されている機器の7割以上で「は」の変換候補に挙がり、残りも「玻」の代表的な熟語「はり」で漢字変換すれば「玻璃」とでるため、携帯電話においても変換は容易である。
カ. 戸籍統一文字にも登録されている(234410)から、戸籍事務処理の観点からみても、今後、子の名にこれが用いられても、審査の困難化や、誤字の記載といった危険性はなく、戸籍事務のコンピューター化に支障をきたすことは、およそ考えられない。そもそも現実に地名(玻名城)、氏(玻座真、玻名城、府玻)、名(玻り子、玻摘)で用いられている(甲32、40)ので、現実に、戸籍事務処理に支障はきたしていない。
キ. 筆記にも格別困難が伴うものではなく、その説明及び他者による理解も極めて容易な部類に属する(おうへんにかわ)。実際、当時小学校二年生の息子に「玻南」の書き方を聞かれ「王へんに皮、南」と教えると書くことができた。同様に内祝いに入れる名前の説明も「王へんに皮膚の皮、南で、はな」と説明すれば、どの店でも理解し、名前を入れてくれた(松坂屋栄本店本館地下一階の、ゴンチャロフ、モロゾフ、ケーニヒースクローネ、フーシェ各店にて)。

 以上のような諸事情を総合考慮すると、本件文字「玻」をこの名前に使用したとしても、戸籍法50条1項が防止しようとする弊害を生じる事態を想定する事は困難というほかなく、したがって、本件文字は、本件に顕れた資料などに照らし、社会通念上明らかに常用平易な文字に該当すると認めるのが相当というべきである。

7. 大阪高裁判決を踏まえ、再度名古屋高裁の判決を検討する。
名古屋家裁、高裁判決における、すべてのワープロソフトで、一回で「は」を「玻」に変換されるわけではない(名古屋基準一。矢藤基準②で反論)は、大阪基準オに対応しますが、大阪基準と比べて非常に厳しいことがわかります。もう一度述べますが、名前に使える別表2の文字にはワープロで打ち出せない文字が42字、「玻」と同程度、もしくはそれ以上に変換の手間を要する字が62字もあり、計104文字がこの基準を満たすことができないのに、「玻」にここまで要求するのは、不当な判断としかいえません。
名古屋基準二(矢藤基準⑥)に対応するのは大阪基準エですが、「絵画、彫刻等の芸術作品の表題や文学作品等に」と、使用される分野が「玻」と同様に限定されているにも関わらず、しかも具体的な証拠提出なしに認められています。一方、「玻」についてはこれだけの証拠を提出しているにも関わらず、「このような非常な努力なしに「玻」の用例を収集し得ないこと自体が、その常用性の乏しさを示しているともいえる。」の一言で片付けています。裁判に挑む人間のどこに証拠集めに努力を払わない人間がいますか?そもそも証拠があって裁判は始まるというのに、証拠の内容ではなく、それを集める過程を勝手に妄想して、(書籍の文中にある「玻」は、中学生の長男、高校生の長女が読んでいた前記の小説等の中から出てきたものであって、高等裁判所が言う「非常な努力」で見つけたものではありません。そもそも意図して一つの文字を探すのに書籍を探したと考えること自体が随分と荒唐無稽な考えであり、そんなことで見つけ出すのは不可能です。さらに前述したように、インターネットを用い、「玻」の実際の使用例を集めたため、集めることはそれほど苦労していません。苦労したのは、本の表紙等をコピーして、提出用の証拠として体裁を整えることと、ワープロで打ち出せない、打ち出しにくい別表2の文字を調べること。そうしたことを抗告期間の2週間でやらねばならなかったことです。)それを否定の材料とするのならば、証拠提出などできなくなり、裁判が成り立たなくなるのではないでしょうか?それでも努力して証拠を集めたことを、こちらに不利な証拠として採用するのなら、9月10日の中日新聞2面(甲47)と、9月11日の地下鉄車内の中吊り広告(甲48)だけを証拠としてください。まったく努力も苦労もなく、日常的に接する報道で「玻」の字を認めております。
また、「証拠として提出した書籍などで「玻」の字はルビが付されていることが多く、それをもって「玻」が平易な漢字ではないと理解されている」という趣旨の判断基準?がありますが、対象年齢がどの程度(子供向け?10台向け?一般向け?)の書籍に、どのくらいの難易度の漢字(JIS第1水準?)と比較して、どれだけ多いのか?具体的な尺度、数値が全く挙げられていません。そもそも、児童、学生向けの書籍に「玻」の字が多く認められていることを示している証拠の中で、ルビをつける基準をいわれても、一般の社会通念とは違うとしかいえません。一例として、「オッベルと象」では、(お早う。遊びにきたよ。その小さな影は、王子のほうへ走ってきました。)括弧内の漢字すべてにルビが付されていました。すべて平易な漢字ではないと理解されているようです。
名古屋基準三(矢藤基準③④⑤)は大阪基準イ、ウ、キに対応し、「玻」の場合も満たしています。
 大阪高裁判決は、本件文字を子の名前として使用した場合、戸籍法50条立法趣旨に照らして、社会生活において、命名された本人や関係者に不便や支障が生じるか否かの観点で、常用平易性を解釈、検討しています。一方、名古屋高裁は、戸籍法50条立法趣旨は関係なく、常用平易性を、常用性のみに重点を置いて解釈、検討しています。(だからこそ、平易性に関連した基準をいくら満たしたとしても、「それだけでは~認められない。」と判断されます。)そして常用性=社会においてあまねく広く多用されていることと解釈しています。それは判決文中の否定理由として、「多用されているとはいえず」「多いとまで認めることができず」「広く多用されているとまでは認めがたい」「広く国民に知られている~事実は認められない」と4箇所も記載されていることから明らかです。このように、どの判断基準に重きを置くかが違うため、名古屋高裁判決では、大阪高裁判決の判断基準そのものである、矢藤基準①(大阪基準対応なし)、矢藤基準②(後半、携帯電話での使用についての部分)(大阪基準カ)はそもそも判断基準にならないとして除外しています。しかし、不便が生じないことと、常用性とどちらが優先されるべきかは、社会をよくするために法が存在することを考えれば、戸籍法50条1項の立法趣旨である、「命名された本人や関係者に、社会生活上、多大な不便や支障が生じないこと」が優先されてしかるべきと考えます。したがって私たちは、名古屋高裁が、戸籍法50条1項の解釈を誤っていると考えます。
 また、名古屋高裁判決の、常用性のみに重きを置く解釈では、民事月報9月号38頁で述べられている通り、漢字出現頻度数調査で、ある程度の数を満たさなかった(広く多用されておらず、したがって人名用漢字部会で検討する文字に値しない)時点で、明らかに常用されていないことになり、名前に使えなくなります。しかしそれでは「玻」「穹」のように特定の分野にのみ頻出する文字は絶対に認められません。そもそも、漢字出現頻度数調査(2)で、約3300万字の活字のうち、出現頻度3012位までの漢字の出現回数の累積度数だけで、全体の99.56%を占めている現実(民事月報5月号165頁)があるので、常用性のみに重きを置く解釈では、これ以下の字が認められる事は100%不可能です。
 こうした状況を解決するために、家庭裁判所の裁量権があるのではないでしょうか?もしこの裁判で私たちの主張が認められない(名古屋家裁、名古屋高裁の考え方が認められる)のなら、家庭裁判所は、戸籍法50条1項を、常用性のみに重きを置いて解釈し、判断するようになるので、上述したように、裁量権により字が増えることが不可能になることは明らかです。(現在でも、家庭裁判所では、平成15年最高裁判決をうけて、常用平易であるだけでなく、「明らかに」常用平易であることが字の認否の判断基準になっています。)それは人名漢字選定に国民が関わることを不可能にするに等しく、戸籍法50条制定後、「悠」「琉」「曽」等の字の裁判を契機に、人名漢字を増やしてきた今までの経緯に大きく逆行するものと考えます。また、今回提出した意見書でも述べられている、人名漢字の範囲の拡張や、常用漢字の大幅な増加を進めてきている、日本人の文字観並びに文字政策の変遷とも、大きく逆行するものだと考えます。

8. 抗告却下以後の変化
 平成21年10月29日に抗告却下の通知をいただいてから、縁があって読売新聞、毎日新聞、朝日新聞、中日新聞(4社総計約1700万部、甲52,53,54)、共同通信、CBCテレビ、TBSテレビに本件を取り上げていただくことができました。このため、名古屋高裁判決で⑥を否定した「一般の新聞、テレビなどで日常的に接する報道や書物などによって、広く国民に知られている事実は認められない」という判断は完全に否定されるので、名古屋基準二も満たすこととなり、以上のような諸事情を総合考慮すると、大阪高裁の判断基準ではもちろん、名古屋高裁の判断でも認められることになるのではないでしょうか?また、今年度の直木賞受賞作品である「鷺と雪」の中でも用いられておりました。(甲58)
 さらに「文字のうち、何が常用平易な文字であるのかは、一義的に明らかではない上、時代の推移、国民意識の変化そのほかの事情によって変わることもあり得る」(最高裁判所判例解説民事篇平成15年度(下)857頁)とあるため、それを具体的にあらわすために、新聞(甲54)、インターネットニュース(甲54)でアンケートを実施しました。その結果、400人以上の意見が寄せられ、有効回答が385得られ、9割近くの人が私たちの主張に賛同してくれ、「玻」の字を子の名に用いることを認めてもいいとの意見を寄せてくれています(甲57)。
(回答のグラフ省略)
結論
 以上より、名古屋高等裁判所の判決は、「曽」の字を子の名に認めた最高裁判決(平15(許)37号2003.12.25決定)と、「祷」、「穹」の字を子の名に用いた出生届けの受理を命じた大阪高等裁判所の判決(平成19年(ラ) 第252号、第486号、2008.3.18決定「民事月報2008年5月号96頁、141頁」)と相反する判断があり、戸籍法50条1項の解釈において重大な誤りがあるため、抗告を受理し、最高裁判所で相当な審判を受けることを求めます。そして、「玻」の字を子の名に用いることを、認めることを求めます

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