2009年11月25日水曜日

明らかに常用平易の基準とは?

前回までで、さっと、人名用漢字選定の歴史をなぞりましたが、そこで気づいたのは、まず「常用」ありき、その後に「ふさわしさ」の選定、に見えたんですがね。



 じゃあ、常用平易って、この基準に漏れたら、もう常用平易じゃないの?

 ってか、常用平易の基準って、つまり何なのよ??その後に認められた字は、どんな基準だったのよ?って思いません?



実は、これまでの申立てでは、個々に常用平易かを検討していて、汎用できる判断枠組みって明示されてこなかったんです。



 で、私たちの申立てに対する「それでは不十分」という、あってない理由での棄却。本人訴訟(っていうのかしら?)だからって、素人だと思って馬鹿にするのにも程がない??って思いました。

 せめて、何がどれだけ不十分か示してみろ(怒)!! とおもい、抗告、抗告で、ついには最高裁行きです(トホホ・・・)。今振り返ると長い道のりでしたが、そもそもこんなにかかるなんて思ってもみなかったわよ~~~!!!



 話が外れましたが、長らく曖昧な基準の中で申立てがなされていました(少なくとも私たちには、共通の基準は見えませんでした)。

が、しかし・・・私たちの申立てに強い見方を見つけました。前述の大阪高等裁判所平成19年(ラ)第486号(以後「穹」事件と言います)および平成19年(ラ)第252号(以後「祷」事件といいます)で、常用平易か否かを判断する基本的な枠組みを出しました。以下の通り。


(1)人名用漢字部会における選定過程においても、出現頻度及び要望法務局数がいずれも基準値を下回ったことから、選定の対象とされなかったものであって、本件文字の常用平易性ないし使用による弊害の有無について、選定過程で個別・具体的に検討された形跡はないもの
(2)本件文字を子の名前として使用した場合、前記立法趣旨に照らして弊害が生じる余地があるか否かという観点からの検討
ア文字の構造、総画数、構成要素、字義、熟語などを考慮し、本件文字について、複雑ないし難解である、あるいは日常目にする機会に乏しく、字義が知られていないなどの観点から弊害が生じることが想定出来るか否か
イJIS第2水準の文字である
ウ文字の画数やその構造の明確さ、部首の汎用性などを含めた平易さ、他者に対する説明伝達の容易さ。
(3)以上のような諸事情を総合考慮し、当該文字を子の名前に使用したとして、戸籍法50条1項が防止しようとする弊害を生じる事態が想定されるか否か




これに照らして「提出された資料と公知の事実」を検討すると、「玻」って、実に常用平易なんですね

既に決定し、常用平易と認められ、今別表2に入っている「穹」の判決文に、「玻」のデーターを入れると、そのまま成立するんです♡♡♡

 読めなんて言いません。ざっとスクロールして眺めるだけで分かるようにしてありますから。ちなみに、青が「穹」 、赤が「玻」のデーターです。

  大阪高等裁判所平成19年(ラ)第486号「穹」
   第2 当裁判所の判断
  (民事月報Vol63.5 p142~158)より引用

1.当裁判所も原審と同じく、本件文字「穹」は、社会通念上明らかに常用平易な文字と認めるべきであるから、原申し立ては理由があり、したがって、抗告人に対し、本件出生届の受理を命ずべきものと判断する


1.私たちは、
本件文字「玻」は、社会通念上明
らかに常用平易な文字と認めるべきであるから、
私たちの申し立ては理由があり、したがって、原審を破棄し、本件出生届の受理を命ずべきものと主張する。

となります。続いて


2.問題の所在
(1)現行の戸籍法(昭和22年法律第224号。従前の戸籍法〔大正3年法律第26号〕を全面改正したものであるが、以下、改正後のものを単に「戸籍法」または「法」といい、改正前のものについては「旧戸籍法」という。)50条は第1項で「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。」と、第2項で「常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。」と各定めている。
 これを受けて、法務省令である戸籍法施行規則(昭和22年12月29日号外司法省令第94号。以下「規則」という。)60条(平成16年9月27日改正後のもの)では、「戸籍法第50条第2項の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。」とした上、
「1.常用漢字表(昭和56年内閣告示第1号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
 2.別表第2に掲げる漢字
 3.片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)」
と規定している。
(2)本出生届において、長男(次女の名に用いられた「(玻)の字は、規則60条1号ないし3号のいずれにも含まれない。

(3)法50条1項が上記のような定めをしているのは、従来、子の名に用いられる漢字にはきわめて複雑かつ難解なものが多く、そのため命名された本人や関係者に、社会生活上、多大の不便や支障を生じさせたことから、子の名に用いられるべき文字を常用平易な文字に制限し、これを簡明なものとすることを目的とするものと解される。
 そして、同条2項が、法務省令で常用平易な文字の範囲を定めることとしているのは、当該文字が常用平易であるか否かは、社会通念上に基づいて判断されるべきものであるが、その範囲は必ずしも一義的に明らかでなく、時代の推移、国民意識の変化等の事情によっても変わりうるものだからであり、専門的な観点からの検討を必要とするものである上、上記の事情の変化に適切に対応する必要があることなどから、その範囲の確定を法務省に委ねる趣旨である。
 規則60条は、この法の委任に基づき、常用平易な文字を限定列挙したものと解すべきであるが、法50条2項は、子の名には常用平易な文字を用いなければならないとの同条1項による制限の具体化を規則に委任したものであるから、規則60条が社会通念上、常用平易であることが明らかな文字を子の名に用いることのできる文字として定めなかった場合には、法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたことになり、その限りにおいて、規則60条は、法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法、無効となるものと解される。そして、法50条1項は、単に、子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字を限定する趣旨にとどまらず、常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものというべきであるから、上記の場合には、戸籍事務管掌者は、当該文字が規則60条に定める文字以外の文字であることを理由として、当該文字を用いて子の名を記載された出生届けを受理しないことは許されず、裁判所は、審判、決定手続きに提出された資料、公知の事実などに照らして、以上の点について審査を遂げ、当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときには、当該戸籍事務管掌者に対し、当該出生届の受理を命ずることができるものというべきである。
 以上は、最高裁判所平成15年12月25日第三小法廷決定(民集57巻11号2562ページ、以下「平成15年決定」という。)が判示するところであり、このこと自体は、平成16年9月に実施された後記の人名用漢字の拡大措置の後においても、同様に妥当するものと解すべきである。
(4) したがって、本件において、裁判所が子に対して本件出生届の受理を命ずることができるか否かは、上記の説示に照らして、本件「)」が、社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるか否かによることになる。


3.記録(公知の事実を含む)によれば、以下の事実が認められる。
(1)本件不受理処分に至る事実の経緯は、事案の概要欄に記載したとおりである。

(2)旧戸籍法における子の名に用いられる文字についての取り扱い
 旧戸籍法においては、届出書の記載について、略字または符号を用いてはならず、字画明瞭なることを要すると定められていたのであり(同法28条1項、55条)、子の名に使用する文字についての法律上の制限はなかった。

(3)戦後の「当用漢字表」の制定に伴う法50条の新設
ア 従来、わが国において用いられる漢字は、その数が甚だ多く、その字体及び字種も複雑多岐にわたるため、国民の教育上又は社会生活上の不便には多大なものがあった。そこで、戦後、これを制限し、国民生活能率を上げ、文化水準を高めることを目的として、昭和21年11月16日、1850字を掲げる「当用漢字表」(昭和21年内閣告示第32号)が制定された
イ 当用漢字は、「法令・公用文書・新聞・雑誌および一般社会で、使用する漢字の範囲を示したもの」とされ、固有名詞については「法規上そのほかに関係するところが大きいので、別に考えることとした」として、人名・地名を対象外としたため、直接には子の名に用いられる漢字の取り扱いの基準となるものはなかった。
 しかし、従来から子の名に用いられる漢字にはきわめて複雑かつ難解なものが多く、そのため、命名された本人や関係者に社会生活において多大の不便や支障を生じさせていたことから、当用漢字表を制定するにいたったという上記の国語施策は、子の名に用いる漢字の取り扱いにも及ぼすことが妥当であるとされ、昭和23年1月1日に、旧法を全面改正の上施行された戸籍法においては、上記の通り、50条1項で「子の名には常用平易な文字を用いなければならない。」と規定し、同条2項で常用平易な文字の範囲の定めを命令(司法省令)に委任した。そして、これを受けて制定された規則60条(当時)において、人名に用いられるべき漢字は当用漢字に限るものとされた。

(4)「人名用漢字別表」及び「人名用漢字追加表」の制定
ア 上記の通り、制定当初の規則60条は、子の名に用いることのできる漢字について、従来からの伝統や特殊な事情に配慮せず、当用漢字のみに制限していたのであるが、そのことについて国民からの大きな批判を招き、国民各層から人名用漢字の範囲の拡大が要望された。
イ 上記要望を受けて、国語審議会(文部大臣〔当時、現在では文部科学大臣〕の諮問機関)において人名用漢字の問題が国語政策上重要な問題として取り上げられ、同審議会内に設置された「固有名詞部会」における審議の結果、昭和26年5月14日、法務総裁及び文部大臣に対し、当用漢字の外に、従来人名意用いられることが多かった漢字など92字について人名に用いても差し支えないものとする「人名漢字に関する建議」が行われ、内閣は、同月25日、上記92字を掲げた「人名用漢字別表」(昭和26年内閣告示第1号)を定め、法務総裁は、同日付で規制を一部改正し(同年法務省令第97号)、「人名用漢字別表」に掲げる漢字を規則60条に定める文字に追加した。
ウ その後も人名用漢字の範囲拡大の要望は続き、昭和49年3月、法務大臣が民事行政審議会に対して戸籍制度に関して当面改善を要する事項について諮問したことにより、同審議会において人名用漢字の問題についても審議され、その結果、同審議会が「子の名に用いる文字について、当面は『当用漢字表』・『人名用漢字別表』による制限方式を踏襲しながら、必要に応じその『人名用漢字別表』の『漢字を追加する等の従来の措置を継続することとし、なお、国語審議会における今後の検討を待って対処するものとする』旨の答申をしたことを踏まえて、法務大臣の諮問機関として設置された「人名用漢字問題懇談会」において、法務局及び地方法務局を通じて全国の市町村」の戸籍窓口に対して実施した調査結果等も踏まえながら、人名用漢字の当面の取り扱いについて検討がなされた。
 その結果、同懇談会から、新たに28字を人名用漢字として追加するのが相当である旨の報告を受け、従来の経緯を踏まえて国語審議会から人名用漢字の追加について了承を得た上で、昭和51年7月30日、上記28字を掲げた「人名用漢字追加表」(昭和51年内閣告示第1号)を定めると同時に、規則60条を一部改正し(同年省令代37号)、「人名用漢字追加表」に掲げる漢字が規則60条に定める文字に追加された。

(5)常用漢字表の制定とそれに伴う新たな「人名用漢字別表」の制定
ア 常用漢字表の制定
(ア)国語審議会においては、昭和47年1月以降、文部大臣の諮問に基づき、国語施策の改善の一環として、当用漢字に含まれる漢字の字種・字体等の問題について総合的な審議を行い。昭和56年3月23日、「法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など一般の社会生活で用いる場合の漢字使用の目安」として「常用漢字表」を作成して文部大臣に答申し、内閣は、同答申にかかわる常用漢字表をほぼ全面的に採用し。同年10月1日、1954字を掲げる「常用漢字表」(昭和56年内閣告示第1号)を制定した。
(イ)常用漢字表は、当用漢字表に掲げられた1850字をすべて継承した上で、新たに95字(うち、7字は人名用漢字別表に、1字は人名用漢字追加表に掲げられていたもの)を追加した。
イ 新たな「人名用漢字別表」の制定
(ア)常用漢字表は固有名詞をその対象外としており、人名用漢字の取り扱いについては、従来国語審議会が関与してきたが、戸籍等の民事行政との結びつきが強い問題であることから、人名用漢字別表の処置などを含め、今後、その取り扱いは、常用漢字表の趣旨を十分参考にすることを前提として、法務省に委ねることとされた。
(イ)そこで、法務省においては昭和54年1月25日、法務大臣の諮問機関である民事行政審議会に人名用漢字の取り扱いについて諮問した。
  審議の結果、同審議会は、昭和56年5月14日「①子の名に用いる文字の取り扱いは、基本的に現行の取り扱い方式(制限方式)を維持すべきである。② 常用平易な漢字の範囲は、常用漢字表に掲げる漢字ならびにそれ以外で現行の人名用漢字別表及び人名用漢字追加表に科掲げる漢字に一定の漢字を追加すべきである。③ 字体については、原則として1字種につき、1字体とすることとし、例外として、当分の間、一定の字種につき二字体を用いることができる(許容字体)。」などとして、新たに54字を人名用漢字に追加すべきである旨の答申をし、これを受けて、法務省は、「人名用漢字別表」及び「人名用漢字追加表」に掲げられていた漢字(計120字)から、常用漢字表に採用された8字を除く112字に、上記54字を加えた合計166字を掲げる新しい「人名用漢字別表」を規則別表第二とし、同年10月1日、常用漢字表の制定と同時に規則60条を改正し(昭和56年法務省令第51号)、法50条の2項の常用平易な文字として「1 常用漢字表に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。) 2 別表第2〔人名用漢字別表〕に掲げる漢字 3 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)」と定めた。

(6)国民一般の要望や裁判例を受けた人名用漢字の追加
ア 昭和56年10月の規則60条の改正後相当の期間が経過するに伴い、国際化の進行等社会の諸事情勢の変化、国民における漢字、あるいは子の名に対する好みの変化などから、人名用漢字の増加を求める要望が高まり、さらには、制限の撤廃を求める意見も見られるようになった。
  そこで、平成元年2月13日、法務大臣は、民事行政審議会に対し、規則60条の取り扱い等について諮問し、その結果、平成2年1月16日、「①子の名に用いる文字の取り扱いについては、制限方式を維持する。 ② 子の名に用いる常用平易な漢字については、現行の施行規則60条2号の漢字に同年4月1日、規則別表に新たに118字を追加する改正を行った。(平成2年法務省令第5号)。
  このとき追加された漢字は、市区町村の戸籍事務窓口において取り扱った制限外の漢字の調査の結果(昭和50年7月及び昭和53年11月実施)から得られた字種のすべてを基礎資料とし、加えて、社会生活上多用されているとみられるJIS第一水準の漢字(その意義は後述する。)の字種にまで拡大してこれらの中から人名用漢字としてふさわしい漢字を選択することとし、同審議会の委員全員により2回にわたりアンケート調査を実施し、その結果を参考として最終的な審議を行った結果として選定されたものである。
イ その後、平成9年11月18日、那覇家庭裁判所において、人名用漢字以外の漢字である「琉」の字を用いた子の出生届を不受理処分としてことに対する不服申し立て事件について、同出生届を受理することを命じる旨の審判(家裁月報50巻3号46頁)がされたことを契機として、同年12月3日、民事行政審議会への諮問・答申を経ることなく、規則60条の一部改正により、規則別表に「琉」の1字が追加された(平成9年法務省令第73号)。
ウ 次に、平成15年12月25日に最高裁判所によってされた前記平成15年決定(この決定は、子の名に人名用漢字以外の漢字である「曽」の字を用いた出生届の追完届けの提出について、戸籍事務管掌者が不受理処分をしたことに対する不服申し立て事件に関するもので、前記の一般的判示の下で、規則60条は、社会通念上明らかに常用平易な文字である「曽」を人名用漢字として定めていない点につき、その限りにおいて戸籍法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法、無効であるとし、上記追完届けの受理を命じた原審の判断を是認したものである。)を契機として、法務省は、平成16年2月23日、規則別表に「曽」を追加する改正を行った(平成16年法務省令第7号)。
エ 更に、人名用漢字以外の漢字を子の名に用いた出生届の不受理処分に対する不服申し立て事件について、横浜家庭裁判所などにおいて、社会通念上明らかに常用平易な文字である旨の判断が示された「獅」「駕」「毘」及び「瀧」の各字について、法務省は、同年6月7日に「獅」の字を、同年7月12日に「駕」「毘」及び「瀧」の字を、それぞれ施行規則別表に追加する改正を行った(同年法務省令第42号、同49号)。

(7)JIS漢字コード
ア JIS漢字コード(「情報交換用符号化漢字集合」)とは、コンピューター等による情報交換において扱われる文字の種類(文字集合)と、各文字をデーターとして処理する際の符号化表現について、財団法人日本規格協会が日本工業規格(いわゆるJIS規格。日本工業標準調査会により審議・制定され、経済産業省(旧通商産業省)により認定されている。)の一つとして規定しているものである。
イ 日本で最初に規定された公的な符号化文字集合の規格であるJIS X0208は、俗に「JIS第1水準・第2水準」などとも呼称されるもので、昭和53年に制定された。
 (ア)その第一次規格(JISC 6226-1978.正式名称「情報交換用漢字符号系」。「旧JIS漢字」と俗称されることもある。)は、非漢字453字、第1水準漢字2965字、第2水準漢字3384字の合計6802字の文字集合であった。
 漢字が第1水準、第2水準という二つの水準に振り分けられたのは、規格制定当時、コンピューターが普及・発達しておらず、規定された漢字すべてを搭載することが難しかったため、より利用頻度の高い漢字を第1水準に収める形を採用したためである。
 すなわち、JIS第1水準漢字は、一般国語表記用として、合計37の漢字表に採用されている漢字(計1万2136文字)の中から、おおむね、「①37の漢字表のうち28表以上に採用されているもの(約2000字)を採用する。②37の漢字表に含まれている漢字数について、地名、人名に関するもの(国土行政区画総覧、日本生命人名漢字表)(A群)は、その他一般に関する漢字表(B群)と大きく異なる特徴を示したことから、漢字表を上記2群に分け、それぞれの漢字を出現頻度などを基に並べ、上位728字を取り出す、③A群及びB群に共通する字(494字)、A群のみに含まれる字(234字)及びB群のみに含まれる字(234字)を採用する。」という手順で選定されたものであり、常用漢字はすべてこの中に含まれる。
 また、同第2水準漢字には、地名・人名、行政情報処理及び国語専門分野といった個別分野用として、主要4漢字表(情報処理学会標準漢字コード表、行政管理基本漢字、国土行政区画総覧、日本生命人名漢字表)のいずれかに現れ、第1水準漢字集合に収められなかった漢字すべてが収められた。
 (イ)その後、昭和58年の第二次規格(JISX 0208-1983.改正当時の名称はJISC 6226-1983だが、後にJISの情報処理部門の新設に伴い、規格番号が「JISC 6226」から「JISX 0208」へと変更され、以降「JISX 0208改定年度」の形式で呼ばれることとなった。「新JIS漢字表」と俗称されることもある。)、平成2年の第三次規格(JISX0208-1990。正式名称は「情報交換用漢字符号」。「人名用漢字別表」の改正に伴い、第2水準漢字に2字を追加し、登録次数が6879字と変更。)への改正を経て、平成9年に現行の第四次規格(JISX0208:1997.正式名称は「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合」。非漢字524時、第1水準漢字2965字、第2水準漢字3390字の計6879字)への改正がされた。

ウ 更に平成12年には、JISX 0208:1997で企画する符号化漢字集合を拡張する規格として、JISX0213では、現代日本語を符号化するために十分な文字集合を提供することを目的として、一般に使われる漢字でJIX0208に収録されていないものを出現範囲の広さなどを基準に選定・追加し、非漢字659時のほか、第3水準漢字として、JISX0208-1983で字体が大きく変更された29字及び常用漢字表において括弧に入れて掲げられた字や人名用漢字許容字体を含む1249字、第4水準漢字として2436時が追加され、合計1万1233字、第1水準漢字から第4水準漢字までの総漢字数は1万0040字となった。

(8)平成16年9月の規則改正
ア 法制審議会における審議及び答申
(ア)審議に至る経緯
 平成2年3月に118字を追加する改正が行われて以来、人名用漢字について大幅な改正はなされていなかったが、以来、相当期間が経過し、その間に人名用漢字の範囲拡大についての要望が多数寄せられ、また、平成15年12月25日に最高裁判所の前記決定(平成15年決定)が出されたことなどの情勢の変化等に鑑み、平成16年2月10日法務大臣は法制審議会に対し、人名用漢字の範囲の見直し(拡大)について諮問を行い、同3月から同審議会内に設置された人名用漢字部会において審議が行われた。
(イ)審議の内容
a 戸籍法50条1項は採用している人名用漢字についての制限方式は、前述の平成2年改正の際の議論において ①子に複雑かつ難解な名が付けられると社会生活において本人や関係者に不便や支障を生じさせることとなる。 ② 現行戸籍法施行から相当年数が経過し、人名用漢字の制限法式もかなり定着しており、これを覆すとかえって混乱を生じる。 ③ 子の利益のために、また、日常の社会生活上の支障を生じさせないために、他人に誤りなく容易に読み書きができ、広く社会に通用する名が用いられることが必要である等の理由で制限方式をとることとされたが、これを改めるほどの社会情勢の変化はない。④ 制限方式を撤廃すれば、戦後行われた日本語の平易化の目標を崩すことにもなりかねない、 ⑤戸籍事務取り扱い上も、制限を撤廃した場合、出生届けに複雑かつ難解な漢字による名が記載されると、究極的には検索の容易でない康熙辞典に依拠せざるを得なくなって審査が困難になる上、手書きによらなければならなくなるため、事務の能率化・機械化に支障を来し、更には誤った字を記載する危険性があって、誤字の発生原因となる。⑥ 現在、子の名に用いる文字については、字種のみならず字体も制限しているが、これを撤廃した場合、一字種に何字体もの漢字が用いられ、社会生活上も戸籍事務取り扱い上も混乱を生じさせるおそれがある。⑦ 制限方式を撤廃した場合、今後戸籍事務の処理をコンピューター化するに当たっての障害となることも予想される上、現に稼動している住民基本台帳のコンピューター処理に支障を来すことにもなりかねないなどの諸点が指摘されていたところ、これらの点については、現時点でも変化はないとの指摘から、子の名には常用平易な文字を用いなければならないとする人名用漢字に関する制限方式(戸籍法50条1項)は維持すべきものとされた。
b 字種の選定について
(a)検討すべき対象漢字
 法50条1項の規定上、「人名にふさわしい」という要点は、特段求められておらず、また前記平成15年決定においても、「社会通念上明らかに常用平易と認められるか否かという点に重きが置かれていたこれまでの人名用漢字追加の議論とは異なり、今回は、戸籍法の規定にできるだけ忠実に「常用平易」な漢字を選定する方向で審議をするとの基本方針で、検討すべき対象漢字の大枠として、まずは、JIS第1漢字水準及びJIS第2水準の漢字(全6355字)のうち、常用漢字表、人名用漢字別表及び同許容字体表に掲げる漢字をのぞいたもの(JIS第1水準の漢字2965字のうち770字、JIS第2水準の漢字3390字)を対象として、出版物上の出現頻度と、全国の市区町村の窓口等に寄せられた人名として具体的に使用したい旨の要望数を集計した。
 検討の対象漢字を基本的にJIS第1水準及び第2水準の漢字としたのは、JIS漢字は、コンピューター等における情報交換に用いる文字の符号化を規定したもので、昭和53年の制定時から存在する第1水準及び第2水準の漢字は社会一般において尊重され、幅広く用いられているものであること、及び、今後も、JIS漢字は、情報通信手段においてより一層その重要性・汎用性を増すものと考えられることによるものであった。
 そして、JIS第1水準及び第2水準の漢字の上記の選定方法に鑑みて、第1水準漢字については原則として常用平易性が認められるであろう観点から検討を行い、第2水準の漢字については、常用平易性を個別に検討し、常用平易性の認められるものについてのみ人名用漢字に追加するのが相当であるとされた。
 他方、JIS第3水準漢字及び第4水準の漢字は、大半のコンピューターに搭載されているとは言い難いものであったため、原則として検討対象とされなかった。
(b)「常用平易な」漢字の選定作業
 上記の基本方針のもとにおける「常用平易」な漢字の選定に当たっては、凸版印刷・読売新聞こよる(「による」の誤りと思われるが、民事月報のまま記載する)「漢字出現頻度数調査(2)」(平成12年、文化庁。調査対象漢字総数は。凸版印刷3330万1934字。以下「頻度数調査(2)」という。)の結果を活用することとされた。これは、同調査のうち凸版印刷で扱った書籍を対象としたものは、同種調査の中でも最大規模のものであったから、人名用漢字の審議においても、この調査結果を活用することがもっとも合理的であると判断されたためである。
 そこで、現在、人名用漢字に含まれていないJIS第1水準の漢字計770字から、上記調査に現れた出版物出現頻度に基づき、出現順位3012位以上(調査対象書籍385誌における出現回数が200回以上)の漢字503字を選定し、それ以外のJIS第1水準の漢字及び第2水準以下の漢字については、上記出現頻度や要望の有無・程度(平成2年から平成15年1月までに全国各市区町村窓口に届出(その後、不受理又は撤回 )・相談された要望漢字について、管掌法務局を一単位とした合計法務局数)等を総合的に考慮して、①JIS第1水準の漢字のうち、出現頻度順位3013位以下(出現回数199回以下)であっても、要望法務局数が6以上(50局の10分の1を超える要望数)の18字(桔、雫、漣、浬、埜、檎、椛、珊、豹、禾、湘、桧、侠、哩、祢、孜、樟、娃)、② JIS第2水準の漢字のうち、出現順位3012位以上であって、要望法務局数が6以上の12字(煌、絆、遙、橙、萬、曖、刹、檜、巳、凉、蕾、徠)、③JIS第2水準の漢字のうち、出現順位3012位以上であって、要望法務局数が8以上の17字(苺、凛、琥、珀、萌、稟、凰、禮、櫂、實、麒、釉、榮、槇、珈、堯、圓)、④ JIS第2水準の漢字のうち、出現頻度順位4010位以下であって、要望法務局数が11以上の字のうち、出現回数が付されていなかった1字を除く8字(惺、昊、逞、梛、羚、晄、驍、俐)、⑤ JIS第3水準の漢字のうち、出現頻度順位3012位以上であり、その異字体がJIS第1水準に掲げられている20字の合計75字が選定された(以上合計578字となる)。
なお、「(玻」(本件文字)は、JIS第2水準
(第2水準)
要望法務局数(4)
頻度数調査(2)における出現順位は4191(3992)(出現回数38(50)回)とされている。

(c)パブリック・コメント手続きの実施
 以上の方針に基づいて選定された漢字合計578字について、平成16年6月11日から同年7月9日までの間、法務省のホームページ上で国民からの意見を募集した(「人名用漢字の範囲の見直し(拡大)に関する意見募集」法制審議会人名漢字部会において取りまとめられた見直し案について、いわゆるパブリック・コメント)。
これに対して寄せられた意見数は、1308件であり、そのうち1058件〈全体の81%〉は人名用漢字の範囲の拡大に賛成であったが、729件(全体の約56%)が「人名にふさわしくない字は削除すべきである」との意見であった。
前記の通り、見直し案にあげた漢字の選定に当たっては、漢字の意味が人名にふさわしいものかどうかを考慮すべきか否かについては考慮せず、パブリック・コメント手続きによる国民の意見も参考にした上で改めて検討すべきであるとされていた経緯があったため、人名用漢字部会において、改めて人名にふさわしくないとされる漢字の取り扱いについて審議した結果、「人名は個人のものであると同時に社会性を有するものであるから、人名に使用することが社会通念上明らかに不適当と認められる漢字を人名用とするべきではない」という方針が了承され、上記パブリック・コメントの結果も勘案しつつ再検討された結果、委員の多数が「名に用いることが社会通念上明らかに不適当である」と判断した88字が削除された。
 また、寄せられた意見のうち、人名用漢字として採用すべきとの意見が27件と特に多かった「掬」については、JIS第1水準であり、前記頻度数調査(2)における出現頻度も高かった(3160位)ことから、追加すべき字種に選定された。
 なお、上記見直し案に掲げられていた「駕」「毘」「及び「瀧」の3字については、人名用漢字部会での審議の間に、前記の通り、家庭裁判所において「社会通念上明らかに常用平易である」旨の判断が示されたこともあり、同年7月に、本作業に先行して、規則別表に追加された。
(ウ)答申
 以上のような人名漢字部会における審議を得て、平成16年9月8日、法制審議会において、要旨、①子の名には常用平易な文字を用いなければならないとする人名用漢字に関する制限方式(法50条1項)は維持する、②「常用平易」な漢字については、JIS漢字(JISX 0213)から、基本的に頻度数調査(2)に現れた出版物上の出現頻度に基づき、要望の有無、・程度なども総合的に考慮して選定し、なお、名の社会性に鑑み、名に用いることが社会通念上明らかに不適当と認められる漢字は除外する、③字体の選定については、基本的に、「表外漢字字体表」に掲げられた字体を選定し、一字種一字体の原則は維持するが、例外的に一字種について二字体を認めることを排斥するものではない、④ 結論として、488字を人名用漢字に追加するのが相当である旨の意見案が報告了承され、同日、法制審議会の意見書として法務大臣に答申された。
イ 規則別表の全面改正
 上記答申を受けて、法務省は、平成16年9月27日、規制を改正し(平成16年法務省令66号)、従来の規則別表及び附則別表に替え、従来の人名用漢字290字に上記488字及び許容字体205字を加えた合計983字を掲げた「漢字の表」として、これを規則60条2号にいう規則別表第二とした。
 なお、この「漢字の表」は「一」(新たに選定された常用漢字の異体字以外の漢字475字、「瀧」を除く従来の人名用漢字289字及び人名用漢字に関する許容字体10字の合計774字)と「二」
(常用漢字の異字体209字)に区分されている。

(9)戸籍統一文字
 平成6年法律大67号による戸籍法の改正により、戸籍事務を電子処理組織によって取り扱うことができるようになったところ、JIS第1水準及び第2水準に規定されている約6400文字以外の漢字について、届出などの情報をオンラインにより市区町村間で送受信する場合のいわゆる文字化け現象を防止するため、戸籍に使用することのできる文字のすべてをコンピューター画面に表示し、かつ、オンライン通信において正しく送受信できる仕組みを整備したものが、戸籍統一文字である。漢字に関しては、約5万字の正字のほか、俗事なども含めて合計約5万6000字が登録されており、本件文字も登録されている。玻は戸籍統一文字番号234410)

(10)本件文字の字義など
「穹」の字義は、「そら(大地を覆う大空)」「中央が高く周辺が垂れ下がっているかたち」「大きい」「高い」「深い」等である。
「あなかんむり」は「穴」が冠になったときの形(あなかんむり)であり、常用漢字中に「あなかんむり」を構成要素とする字は、「究」「空」「突」「窃」「窓」「窮」「窒」「窯」の8字が含まれ、漢字の表「一」には「穿」「搾」「窟」「窪」が掲げられている。 「弓」は、弓の意味であり、偏(へん)ないし音符、意符として用いられることも多く、これを構成部分とする字として、常用漢字には、「引」「弦」「弧」「弱」「強」「張」「弾」「湾」等があり、また、漢字の表「一」には、「弘」、「弛」「弥」「彌」が掲げられている。

「玻」の字義は「天然ガラス。また、仏教で、七宝の一つである水晶のこと」である。その意味は美しく高貴なものであって、諺にも「瑠璃も玻璃も照らせば光る(優れた者はどこにいても目立つ)」といった用いられ方をする。
「王(たまへん、おうへん)」は王、国の支配者、国王、王将の駒を意味し、旁の「皮(かは)」は外側を覆って包むもの、毛皮、表面を意味する(三省堂国語辞典より)。
王を構成要素とする漢字は王、玉、珍、玪、珠、班、球、現、琢、理、琉、瑛、琴、琶、斑、琵、瑞、揺、瑠、璃、環、璽、構成要素に皮がある漢字皮、彼、披、波、疲、破、被、などがある。偕成社「下村式小学漢字学習辞典」より抜粋

4常用平易性についての考え方
(1)法50条1項が、子の名に用いることができる文字を常用平易な文字に限定した目的は、前記の平成15年決定が説くとおり、従来、子の名に用いられる漢字にはきわめて複雑かつ難解なものが多く、そのため命名された本人や関係者に、社会生活上、多大な不便や支障を生じさせたことから、子の名に用いられるべき文字を常用平易な文字に制限し、これを簡明にすることにあるのであり、平成16年の規則改正も、同様の理解を前提として行われたものであることはすでに認定したところである。
(2)「常用平易」の字義自体は、文字通り平易である。しかし、「常用平易な文字」であるか否かは、平成15年決定が指摘するとおり、社会通念に基づいて判断されるべきものであるところ、その範囲は、必ずしも一義的に明らかではなく、時代の推移、国民意識の変化などの事情により変わりうるものであり、専門的な見地からの検討と、事情の変化に適切に対応する必要があることから、その範囲の確定を法務省令に委ねたのである。しかしながら、そのような場合であっても、規則60条の規定が法による委任の趣旨を逸脱しているか否かについて裁判所の審査が及ぶものである以上、その「社会通念に基づく常用平易性」を判断するに当たっては、前記の立法趣旨に立ち返って検討する必要があるというべきである。
 すなわち、その検討に当たっては、当該文字を用いた名前が付けられることにより、社会生活において、命名された本人や関係者に不便や支障が生じるか否かの観点、より具体的には、子の名に複雑・難解な、あるいは日常目にすることが比較的稀な漢字を用いたために、本人や関係者が、当該名を記載したり、読解したりすることにおいて、あるいは、口頭で当該名を他者に説明する際、いかなる文字を用いているかを伝達することに困難を感じたり、誤解を生じたり、また、類似する文字と紛らわしく、誤記・誤読につながる等の弊害が生じる可能性ないし蓋然性がどの程度あるか、という観点が考究されるべきものと解するのが相当である。
 また、規則の平成16年改正時の審査過程においても確認されている通り、情報通信手段(近時における携帯電話の著しい普及状況は、当裁判所に顕著な事実というべきである。)やコンピューターの普及等により、多数の人が複雑多岐な交渉手段を有するようになった現代社会においては、難解な文字を用いた名は、たとえば機械的、電子的な文書の処理や通信などの支障となり、公私の事務処理の能率を低下させるという弊害を生じさせるという観点も軽視することはできない。
(3)前記の人名用漢字部会における選定過程は、社会一般において幅広く用いられるJIS規格における位置付けのほか、刊行物における出現頻度について同種の調査の中で最大規模である前記頻度数調査(2)の調査統計資料を用いて一応の基準を設け、更に、各法務局からの要望法務局数を考慮し、また、パブリック・コメント等の手続きを経て、一定の漢字を追加し、一部の漢字については、人名としての適切性の観点からの個別の議論も経たうえで、最終的な選定にいたったものである。そして、このような方法は、きわめて多数の漢字を、当時利用可能な資料に基づいて、包括的かつ能率的に審査をする方法としては、前記立法趣旨に照らして相応の合理性があるものと評価すべきであるから、その検討結果も尊重されるべきことは当然である。
 しかしながら、他方、前記のような方法で、上記のような個々の文字の利用による具体的な弊害の有無を判断することには、その方法が主として、刊行物という印刷媒体に依拠したものであること、あるいは希望法務局数を重視したものであることから来る一定の限界があることは否定できないのであって、そうであるとすれば、その選定に関わる漢字が人名用漢字として網羅的に抽出されたものであるとか、その選定に漏れた漢字について、直ちに、人名として不適切な程度に常用平易性を欠いているという積極的な専門的判断がされたと評価することは相当ではないものと言うべきである。
(4)このようにみてくると、裁判所が一定の具体的な漢字が社会通念上常用平易であるか否かを判断する場合、前記の人名用漢字部会における選定過程の判断は尊重されるべきではあるけれども、手続き上提出された資料、公知の事実に照らして、上記の観点から検討した場合において、当該文字を子の名に使用したとしても、戸籍法が防止しようとする前記のような弊害が生ずることが想定されないと認められる例外的な場合には、前記の立法趣旨に照らして、当該漢字の使用を制限すべき根拠を欠くことになるから、当該文字は、社会通念上常用平易であることが明らかな漢字と評価されるべきであり、たとえ、一定の刊行物の範囲内で当該漢字の出現数があらかじめ設定された基準より少なく、また、法務局からの要望数などが所定の数値に達しなかったからといって、当該文字が常用平易性を欠き、人名として使用することができないものとすることは法の趣旨に照らして、著しく合理性を欠くものというべきである。 したがって、その場合における規則60条2号は、当該文字を登録していないという限りにおいて、法50条2項の委任の趣旨を逸脱するものとして、違法、無効と評価するのが相当
というべきであり、裁判所は、戸籍事務管掌者に対し、当該出生届等の受理を命じるのが相当である。

(5)抗告人は、戸籍事務の混乱を防ぐ必要を指摘し、平成16年の規則改正により常用平易な漢字は網羅されたことを考慮すれば、個別的な審査で常用平易な文字と認めることは極力避けるべきであると主張するが、その前提では疑問があるのみならず(この部分は「玻」は関係ない)、
戸籍窓口において、前記のような選定過程を経た漢字を統一的な基準として事務処理を行う必要があるということと、漢字の表に搭載されていない個々の漢字につき上記のような観点から、裁判手続きにおいて個別的にその使用の可否を判断することとは、格別矛盾抵触するものではない。平成16年の規則改正以前においても、規則所定以外の漢字を使用した届出を受理するか否かが問題となったために戸籍事務が大きく渋滞したり、過去の審判例で、規則所定以外の文字を常用平易と判断したことによって、戸籍窓口に特に大きな混乱が生じる事態に至ったと認めるべき資料は見当たらない。

5.本件文字の常用平易性についての検討
(1)本件文字「(玻)は、前記の人名用漢字部会における選定過程においても、出現頻度及び要望法務局数がいずれも基準値を下回ったことから、選定の対象とされなかったものであって、本件文字の常用平易性ないし使用による弊害の有無について、選定過程で個別・具体的に検討された形跡はなく、また、前記の経緯に照らすと、同部会において、本件文字が常用平易性を欠いていると個別的・積極的な判断がなされたものと評価すべきものとはいえない。

  1. (2)次に、本件文字を子の名前として使用した場合、前記立法趣旨に照らして弊害が生じる余地があるか否かという観点から検討する。
    ア まず、本件文字の構造は、総画数も8(画と少なく、この構成要素も「穴」(あな・あなかんむり))「王」(おうへん・たまへん「弓」(ゆみ皮」(かわ)と、いずれも単純かつ一般的なもので、同じ構成要素からなる漢字も少なくない。
     さらに、その字義は上記の通り、「蒼穹」「天穹」「玻璃」「玻璃鏡」「玻璃窓」「玻璃版」「玻璃珠」など、比較的使用されることの多い熟語(絵画、彫刻などの芸術作品の表題や文学作品などにしばしば見受けられることは前述の通り、多数の証拠が示す)の形で用いられることも多い。これらのことなどを考慮すれば、本件文字について、複雑ないし難解である、あるいは日常目にする機会に乏しく、字義が知られていないなどの観点から弊害が生じることは、想定することが困難というべきである。
    イ 次に、本件文字はJIS第2水準の文字である。
     平成16年規則改正の際にも、JIS第1水準及び第2水準の文字は、社会一般において尊重され、幅広く用いられているものであることとの一般的認識があったものであり、また、大半のコンピューターに搭載されているところから、情報通信手段において、より一層、その重要性・汎用性が増すことが期待できるものであって、社会生活を送るに当たってのコンピューターなどの画面上の表記や国民の多数が所持している携帯電話などを利用したメール機能による送信などにも全く不都合はない(なかった (甲1))


ウ また、この名前に用いられる漢字を、常用平易な文字に制限した前記の趣旨から見て、当該漢字による命名を受けた子ないし関係者が社会生活を営むに当たり、不便を感じる可能性の程度も、当該漢字の常用平易性を判断するに際しての要素となり得る。
 人名は、比較的年少の段階から手書きで記載する機会が多いものであるから、文字の画数やその構造の明確さ、部首の汎用性などを含めた平易さが相対的に重視されて然るべきであるし、他者に対する説明伝達の容易さもその一要素としてよい。
 この点から本件文字をみると、その構造が単純で明確であることは前記の通りであって、その筆記にも格別困難が伴うものでもなく、その説明及び他者による理解も極めて容易な部類に属する
あなかんむりにゆみおうへんに皮膚の皮)ことは、明らかというべきである。

(3)以上のような諸事情を総合考慮すると、本件文字「」を子の名前に使用したとしても、
戸籍法50条1項が防止しようとする弊害を生じる事態を想定することは困難というほかなく、したがって、本件文字は、本件に顕れた資料等に照らし、社会通念上明らかに常用平易な文字に該当すると認めるのが相当というべきである。 

6.上記のとおり、本件文字「」は、社会通念上明らかに常用平易な文字であると認められるところ、規則60条はこれを常用平易な文字として定めていないのであるから、同条は、その限度で戸籍法50条1項、2項の委任の趣旨に明らかに反するものとして、違法となるといわざるを得ない。


そうすると、戸籍掌管者である抗告人は「穹」の字が規則60条に定められる文字でないことを理由として「穹」の字を用いて子の名を記載した本件出生届を不受理とすることはできず、その他、本件においては、命名権の乱用等本件出生届の不受理を相当とすべき事情があるとも認められないから、本件不受理処分は、違法であって、原申し立ては理由があるべきものというべきである。
 以上と異なる抗告理由は、上記説示に照らして、いずれも採用することができない。
7.以上の次第で、原申し立てを理由があるものとして、抗告人に対し、本件出生届の受理を命じた現審判は正当であり、本件抗告は理由がないから、棄却することとして、主文のとおり決定する。

 平成20年3月18日
大阪高等裁判所第10民事部
  裁判長裁判官 田中壮太
     裁判官 松本 久
     裁判官 久保井恵子


そうすると、戸籍掌管者
は「玻」の字が規則60条に定められる文字でないことを理由として「玻」の字を用いて子の名を記載した本件出生届を不受理とすることはできず、その他、本件においては、命名権の乱用等本件出生届の不受理を相当とすべき事情があるとも認められないから、本件不受理処分は、違法な戸籍法の拡大解釈であって、命名権の侵害   
である。
〈以下該当しない部分なので省略〉
7.以上の次第で、原申し立てを理由があるものとして、名古屋市長に対し、本件出生届の受理を命じるべきであると申し立てる。



 平成21年11月20日
        矢藤仁
        矢藤清恵

どうです? 赤字と青字以外は、全く同じです。で、判決が分かれる理由が私には分かりません。

これに対しては、特別抗告理由書の中では

3ページ要旨で述べたとおり、これらの決定日も近接しており、この間に大きな社会通念や国民意識、時代の変化が起こったとは考えられず、その事実も確認できていない。
よってこの二件に限っては、決定に区別を生じるだけの合理的理由はない。憲法第14条1項は法の下の平等を定めており、この規定は事柄の性質に即応した合理的根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきことは、最高裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・刑集27巻3号265頁)、合理的根拠なく、名古屋市長に出生届の受理を命じないという決定は、戸籍の取得についての著しい差別的取扱いであり、従って本件名古屋高等裁判所の決定は、憲法第14条平等権について違憲・無効である。

としましたが、素人がない知恵を絞って書いただけに、どんな風に判断されるのか不安です。

0 件のコメント: